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「壁を増やせば安全」の虚実。東大・坂本功と京大・五十田博に学ぶ、木造耐震改修の「2大パラダイム」を徹底解剖

「古い木造住宅の耐震改修といえば、とにかく壁を増やして金物で固めるもの」――そう一括りにしていませんか?実は日本の木造建築耐震研究の深層には、単なる計算手法を超えた大きな「二つの構造思想(技術パラダイム)」が存在します。
本記事では、阪神淡路大震災以降の実務を牽引してきた伝統的な「経験工学(坂本功・東大名誉教授の系譜)」と、激甚化する大地震の挙動を厳密に解析する先進的な「性能工学(五十田博・京大教授の系譜)」を徹底比較。施主や実務者が知るべき、木造耐震改修の真の安全基準について、複数の専門的視点を融合させて解説します。

目次

坂本功の思想:「経験工学」が導く普及型・王道補強の論理

個別性の高い既存住宅を「まず倒壊させない」実務アプローチ


東京大学名誉教授・坂本功氏を中心とする学術的系譜は、1995年の阪神淡路大震災で露呈した木造住宅の脆弱性
を克服するために、「実務における確実な普及と即効性」を最優先に構築されてきました。既存の木造住宅は、経
年劣化や大工の職人技による個体差が激しく、完全な数値化が極めて困難であるという冷徹な現実が出発点となっ
ています。

このアプローチは、「多少保守的(オーバークオリティ)であっても、安全側に設計を落とし込むことで、職人の
施工技術に左右されず確実に倒壊を防ぐ」という、経験工学に立脚した極めて実務的な思想と言えます。

五十田博の思想:「性能工学」が暴く壁量計算の限界

「どれだけ耐えるか」から「建物全体がどう壊れるか」への大転換


これに対し、京都大学教授・五十田博氏に代表される次世代の研究者コミュニティは、コンピュータ解析の高度化と実大振動台実験(E-ディフェンス等)の知見をベースに、「性能工学」および「限界状態設計」の視点を木造建築に導入しました。
五十田氏の最大の問題意識は、「現行の壁量基準や診断評点を満たしているからといって、必ずしも大地震で安全
とは言い切れない」
という点にあります。静的な壁量計算だけでは、以下のような「動的かつ複合的な破壊メカニズム」を捉えきれないためです。

つまり、単に数値上の「強度」を競うのではなく、地震の入力に対して建物がエネルギーをどう吸収し、どう変形
して崩壊に至らないかを評価する、動的・時間軸的なアプローチを重視しています。

構造思想の徹底比較:二大巨頭のスタンスを整理する


両者の構造思想は完全な対立関係ではなく、木造建築の安全性を担保するための「フェーズと解像度の違い」で
す。実務的な選択を行うために、その本質を表で整理します。

最も激しい議論の本質:「部分補強」と「評点1.0」の信頼性

完璧な全体改修か、ハードルを下げた部分補強か


実務現場において、両者の思想差が最も顕著に現れるのが「部分補強(1階のみ、あるいは寝室のみの補強)」の
是非です。

坂本系思想は、予算や高齢の施主といった現実的制約を踏まえ、「改修工事のハードルを下げてでも、日本全体の
既存ストックの耐震化件数を底上げするべき。中中途半端でも、やらないよりは倒壊確率を大幅に下げられる」と
説きます。これはマクロな防災・減災視点です。

一方、五十田系(性能工学)の視点では、「バランスを無視して1階の一部だけをガチガチに固めると、未補強部
分との境界に変形や応力が集中し、かえって牙を剥くような凶悪な壊れ方を誘発しかねない」と、ミクロな破壊力
学の観点から慎重なシミュレーションを求めます。

2020年代以降の木造耐震はどう進化すべきか?

熊本地震・能登半島地震を経て「木造建築2.0」へ


近年の激甚災害、特に2016年熊本地震で見られた「震度7が2回連続する」事態や、2024年能登半島地震における
旧耐震建物の壊滅的被害は、この二つの思想の融合(ハイブリッド化)が不可欠であることを示しています。
現代の木造住宅は、省エネ化(ZEH・太陽光パネル搭載)や高断熱化(高密度な壁体・トリプルガラス)によっ
て、過去の建物よりも確実に「建物総重量」が重くなっています。つまり、地震時に建物に作用する慣性力 F = ma
は、基本設計段階から増大しているのです。

これからの木造耐震改修が目指すべき姿

単なる「仕様規定としての壁量確保(坂本思想)」をベースラインとしつつ、そこに「制振ダンパーによる
エネルギー吸収特性の付加」や「高剛性な床・接合部のディテール設計(五十田思想)」を重ね合わせる設
計アプローチです。
これにより、1回目の巨大地震で壁(耐力要素)が損傷しても、2回目の余震で即座に倒壊へ至らない「変形
性能(靱性)」を確保することが可能になります。これこそが、建築実務者と施主が目指すべき、真の意味
での安心な木造耐震改修の最適解です。

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