はじめに:東京の建築ストックという課題
東京には現在、築40年以上のオフィスビルやマンションが大量に存在する。
日本の建築ストックの更新問題は、単なる老朽化の話ではない。
社会構造の変化(人口減少・高齢化・働き方の多様化)に、建物の機能が追いついていないことが本質的な課題だ。
この課題に対し、CLT(直交集成板)を活用したモジュール構法が、一つの有力なアプローチとして注目されている。
本記事では、CLTモジュール構法の基本的な考え方と、東京の都市更新における可能性を整理する。
CLTモジュール構法とは何か
CLTとは、ひき板を繊維方向が直交するよう重ね接着した板材で、木材でありながら高い強度と寸法安定性を持つ。
モジュール構法とは、建物を「構造」「設備」「外装」などの機能ごとに分割し、それぞれを独立したモジュールとして設計・施工する手法だ。
両者を組み合わせることで、次のような特性が生まれる。
| 特性 | 内容 |
|---|---|
| 更新性 | 必要な部分だけ将来的に交換・改修できる |
| 解体性 | スクラップではなく、部材単位での再利用が可能 |
| 工期短縮 | 工場製作・現場組み立てによる合理化 |
| 環境負荷低減 | 廃棄物削減とカーボンストックの維持 |
東京の都市更新における具体的な適用可能性
① 団地・集合住宅の更新
高度経済成長期に大量供給された公団住宅は、現在「超高齢居住者×老朽化建物」という二重の課題を抱えている。
CLTモジュールによる改修では、外壁パネルや設備配管を交換可能なユニットとして再設計することで、全面建て替えなしの段階的更新が可能になる。
② 小規模オフィス・商業施設の用途転換
コロナ禍以降、都心のオフィス需要は構造的に変化している。
モジュール構法で建てられた建物は、内部仕切りや設備レイアウトの変更が容易なため、オフィス→住宅→コワーキング→医療施設といった用途転換を低コストで実現できる。
③ 木造高層建築への応用
CLTは鉄骨・RC造との複合構造にも対応しており、中高層建築への適用事例が国内外で増えている。東京都の木造建築促進の流れとも合致する。
技術者が直面する実装上の課題
もちろん課題もある。主なものを整理しておく。
接合部の設計:モジュール間の接合部は、構造上の弱点になりやすい。ドライジョイント(乾式接合)の技術開発が進んでいるが、設計者の習熟が必要だ。
法規制との整合:建築基準法の「耐火構造」要件との関係で、CLT現しの適用に制約がある場合がある。大臣認定の取得ルートを理解しておく必要がある。
コスト管理:モジュール化は初期設計コストが増える。しかし50年・100年のライフサイクルコストで見ると、スクラップ&ビルドより有利になるケースが多い。LCAによる評価が重要になる。
まとめ:「建て替えない都市更新」という発想転換
東京の都市更新において、CLTモジュール構法が提供する最も重要な価値は、「建て替えなくても更新できる」という選択肢の創出だ。
資源制約・脱炭素・人口減少という構造的変化のなかで、建築技術者には「どう建てるか」に加え「どう更新するか」を設計段階から考える力が求められる。
木造建築2.0の観点から、こうした実践的な知見をさらに深掘りしている。
建築の未来を一緒に考えたい方は、ぜひSubstackをご覧いただきたい。
参考:国土交通省「CLT等木材利用促進に関する取組」/林野庁「建築物木材利用促進法」
