林業と建築における木材利用 ―日本学術会議







公開シンポジウム 林業と建築における木材利用 ―川上から川下までの現状と課題―学術会議

林業と建築における木材利用

主 催:日本学術会議農学委員会林学分科会

日 時:2019年9月30日(月)13:00~17:00

場 所:日本学術会議講堂

参加者約100名

開会挨拶  丹下 健(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)

趣旨説明  五十田 博(京都大学生存圏研究所教授)

今日のシンポジウムは川上である林業から川下の建築という従来の流れから、川下の建築側から川上側の業界への要望という構図になるだろう。

国産木材は余っていても需要が伸びない。

国策として木材需要を拡大しようと、4階以上と非住宅建物の木造化を促進している。

林業には、国からの補助金や税の優遇措置が実施されている。

森林・林業・木材利用の現状と課題  鮫島 正浩(信州大学工学部教授)

森林面積は国土面積の3分の2

人工林資源を「伐(き)って、使って、植える」循環が必要。

国土面積の3分の2を占める森林のうち人工林は約4割を占める。

人工林は、半数が50年生を超え、収穫期を迎えている。

木材自給率は、戦後は100%だったが、経済事情から急減した。

2000年頃から上昇に転じ、2017年には36%まで回復した。

外国と比べると日本の木材自給率は低調。

衰退する林業を再生するための政策が実施されてきた。

  • 林業基本法2001
  • 森林・林業基本計画2016
  • 統合イノベーション戦略・バイオテクノロジー2019

中層大規模時代の木材利用、品質確保  青木 謙治(東京大学大学院農学生命科学研究科准教授)

国は、木材需要を高めるために中大規模建築への木材利用を促進している。

はじめよう!中大規模木造

事例 CLT、木質耐火部材を使用した都市部における中高層建築物の建設

竣工した耐火構造(2時間)による10階建てマンション(宮城県仙台市)

 

海外の中高大規模建築物と日本における課題  五十田 博(京都大学生存圏研究所教授)

ノルウェイの世界一高い木造ビル。建物の高さは85.4m、18階建。2019年竣工。

実務からみた中高層建築物の可能性と木材利用の課題  貞広 修(清水建設設計本部上席設計長)

木造(2時間耐火)と鉄骨のハイブリッド構造。床と壁はCLT。10階建てマンション。設計竹中工務店。2019年竣工。

東京・銀座で計画中の地上12階建ての耐火木造ビル。2021年完成予定。デザイン監修隈研吾。

2時間耐火部材を1階の外壁と間仕切り壁に使用した5階建て木造マンション。株式会社シェルター・大和不動産株式会社2017年竣工。

柱、梁、床、壁が木材。高層純木造耐火構造。11階建て研修所。設計大林組。2022年完成予定。

高さ350m。木材と鋼材を組み合わせた柱・梁と鉄骨制振ブレース。構想住友林業。2041年完成予定。

世界的な高層木造化の流れで、日本の企業は独自に木材を構造体として利用する建築の設計をしている現状が語られた。

総合討論 「今後の建築分野での木材利用に向けて」  司会:杉山淳司(京都大学生存圏研究所教授)

CLTの反省

普及する前に、高いグレード設定したため高価となり、現場で採用しにくい。

JASの反省

JAS認定に経費がかかり、敬遠されている。これもグレードの設定が高すぎるため利用の阻害となっている。

森林サイクル

推進している、20年周期の木材は、密度が低く品質が劣る。

森林樹種の選定

スギよりもカラマツの方が硬くて人気樹種となった。これからの植林する樹種について議論が不十分。

閉会挨拶  川井秀一(京都大学生存圏研究所特任教授)

このシンポジウムの目的は、建築から山への要望をまとめることだった。

持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)、木造の大型化などの国際的な社会・経済の中で日本の林業がどこに位置しているかを知りたかった。

大型木材はRC、S構造と併用されて活用されるだろう。

まとめ

建設業界は、木材の材料としての親近感からニーズを掘り起こし、結果を出している。

国産材の需要を急促進させるためには、木材の規制を緩めて、マーケットの自由度を増やした方が良い。

付録:開催趣旨

戦後植林した日本の人工林は収穫期を迎えている。主たる木材利用先の建築分野においては、 「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」や、近年の防火規定関係の緩和などの 法令改正により、木材利用のしやすい環境への整備が進んでいる。これらの環境整備は、政治主 導だが、背景には学術的な検討があり、その結果としての政策でもある。 また、古い体質であった国産材の利用に関連する分野、例えば林業、製材業、建設業も転換を 迫られており、地方創生や産業創出に向けた新たな展開が求められている。これらの展開は日本 の独自の問題、特異性というわけではなく、海外においても同様に法令改正が進められ、さらに 各産業でAI などを利用した技術革新が図られている。 本シンポジウムでは、木材利用を取り巻く環境の現状を整理するとともに、今後の課題を整理 し、木材利用の国策と今後の学術活動のあり方について議論する場としたい。

森林・林業白書より抜粋

2019年森林・林業白書 第4章 木材産業と木材利用より

合板製造業

 

合板への国産材針葉樹の利用が拡大し、2017年には国内の合板生産における国産材割合は82%に上昇した。

プレカット加工業

木造軸組構法におけるプレカット材の利用率は2017年では92%まで拡大し、施工時に使用される木材の選択に重要な役割
中大規模木造建築の普及に伴いプレカット加工技術も進化している。

合板、プレカットはマーケット主導で国産材の使用を増やしている。