「銀行は鉄壁の要塞のように安全だ」。
多くの人がそう信じています。何重ものセキュリティ対策に守られ、私たちの資産は厳重に保護されているはずです。しかし、それほど安全なら、なぜ金融詐欺や不正送金のニュースが後を絶たないのでしょうか?
多くの人がそう信じています。何重ものセキュリティ対策に守られ、私たちの資産は厳重に保護されているはずです。しかし、それほど安全なら、なぜ金融詐欺や不正送金のニュースが後を絶たないのでしょうか?
実は、銀行を狙う脅威は、映画に出てくるような天才ハッカーがシステムの壁を打ち破る、という単純な話ではありません。この記事では、一般的に考えられているハッキングとは異なる、銀行セキュリティの意外な「弱点」を5つの衝撃的な事実として紹介します。あなたの資産を守るための本当の知識が、ここにあります。
1. 銀行のシステム自体は、ほとんど破られていない⁉
銀行のコアシステムへの直接的なハッキングは非常に稀です。金融機関は、私たちの想像以上に堅牢な防御策を講じています。
• 強固な暗号化(SSL/TLS): オンラインバンキングの通信データは暗号化されており、第三者が盗み見ても解読はほぼ不可能です。口座データもサーバー内部で暗号化された状態で保存されています。
• 多要素認証(MFA): IDとパスワードだけでなく、ワンタイムパスワードや生体認証などを組み合わせることで、たとえパスワードが漏洩しても不正ログインを防ぎます。
• 不正検知システム: 銀行はAIや機械学習を使って、不自然なログイン場所(例:日本人が同時に海外からログイン)や異常な振込パターン(例:突然の高額送金)をリアルタイムで監視。怪しい動きを検知すると、自動で取引を一時停止したり、本人確認を要求します。
• オフライン・分離システム: 口座データの基幹サーバーの多くは、インターネットから直接アクセスできない「クローズドネットワーク」で管理されており、外部から直接攻撃することは極めて困難です。
賢い攻撃者は、正面からこの要塞を攻めようとはしません。彼らはもっと弱い部分、つまりシステムの「外側」を狙います。この記事の核心を突くメッセージは、次の言葉に集約されます。
多くの被害は「銀行システムが破られた」よりも「利用者の端末や操作がだまされた」ケースがほとんどと言われています。
主な銀行システムのハッキング事例
日本国内で「銀行システムそのものが破られた(大規模なシステム侵入)」と明言されている事例は、公開情報としてあまり多くは見つかりません。
銀行は高度なセキュリティ対策を取り、公開できる情報には限界があるため、大規模なハッキングがあっても「内部調査中」などで詳細が公にされないことが多く、被害が起きたとしても、それが「銀行サーバーへの侵入」か「顧客端末のマルウェア/フィッシング」か、という区別があいまいなケースが多い。
以下に公表されたハッキング関連事例を挙げます。
1. 地方銀行9行への同時障害(2025年4月17日)
- 対象銀行:広島銀行、八十二銀行、中国銀行、武蔵野銀行、阿波銀行、宮崎銀行、琉球銀行、山形銀行、筑波銀行
- 原因:共同運用センター「eMuSC」が第三者から攻撃を受け、インターネットバンキングが利用不能に
2. 三井住友銀行:AI音声による「ボイスフィッシング」(2025年1月)
- 手口:AIが生成した支店長の声で従業員に不正送金を指示
- 対策:AI予測型DDoS防御システムを導入し、攻撃パターンを最大97時間前に検知
3. クレジットカード会社の決済端末ベンダーへの標的型攻撃(2025年3月)
- 影響:全国のATMで不正出金が発生
- 課題:委託先のセキュリティレベルが本体の1/3しかなかったことが脆弱性に
4. サプライチェーン攻撃:株式会社ギオン(2025年5月)
- 被害:約7万5,000件の顧客氏名が漏えい
- 教訓:業務委託先のセキュリティリスクが顕在化
5. 三井住友銀行(2025年1月)
- 手口:音声合成AIによる「ボイスフィッシング」
- 概要:AIが生成した支店長の声を使って従業員に不正送金を指示。人間の声と見分けがつかないほど精巧な音声が使われた。
6. りそな銀行(2024年末〜2025年初)
- 手口:大規模DDoS攻撃
- 概要:1秒あたり3.4テラビットのトラフィックが発生。従来の3倍規模の攻撃で一部サービスが停止。AI予測型防御システムにより被害を74%軽減。
7. 三菱UFJ銀行(2025年2月)
- 手口:脈波認証技術の導入とその課題
- 概要:指先の血流パターンで認証する新技術を導入。偽造耐性は高いが、誤認識のリスクも残る。
8. 国内11銀行(2020年)
- 手口:不正口座利用
- 概要:120件以上の不正利用が発生し、被害総額は2,800万円以上。SMSによる2段階認証などの対策が急務とされた。
9. 三菱東京UFJ銀行(時期不明)
- 手口:不正アクセスによる個人情報流出
- 概要:預金口座の入出金明細が流出し、架空請求詐欺に悪用された。
これらの事例から、銀行はAIや量子暗号などの最新技術を導入しつつも、人的確認やサプライチェーンのセキュリティ強化など多面的な対策が求められています。

銀行の堅牢なシステムを迂回するため、攻撃者が標的にするのは最新技術の脆弱性ではなく、人間の心理的な隙です。これは「ソーシャルエンジニアリング」と呼ばれ、古典的でありながら今なお最も効果的な手口の一つです。
攻撃者が用いる代表的な「攻撃ベクトル」は、以下の通りです。これらはすべて、技術ではなく人間の判断ミスや習慣を悪用します。
• フィッシング詐欺: 銀行を装った偽のメールやSMSを送りつけ、偽サイトに誘導してIDやパスワードを盗み取ります。
• スマホやPCのウイルス感染: 不審なアプリやファイルを開かせることで端末をマルウェアに感染させ、入力情報を盗んだり、遠隔操作したりします。
• 使い回しパスワードの流出: 他のサービスで使っていたパスワードが流出し、それを銀行口座で試されて不正ログインを許してしまいます。
これらの手口はすべて、利用者に「だまされた」操作をさせることで成立します。この脅威の深刻さは、実際の被害額にはっきりと表れています。日本では、インターネットバンキングにおける不正送金の被害が、令和5年11月末時点で被害件数5,147件、被害額は約80.1億円に達し、過去最悪を記録しています。
技術がどれだけ進歩しても、人間の「うっかり」や「思い込み」を突く攻撃がなくならないのはこのためです。私たち一人ひとりの警戒心と正しい知識こそが、最も効果的な防御策なのです。

銀行自身がどれだけセキュリティを固めても、思わぬ場所から攻撃がやってくることがあります。それが、銀行と取引のある外部パートナー企業の脆弱性を狙う「サプライチェーン攻撃」です。
海外では、この手口による大規模な事件が実際に発生しています。
1. バングラデシュ中央銀行事件 (2016年)
銀行そのものではなく、銀行間の国際送金で使われるネットワーク「SWIFT」のクライアント側ソフトウェアがマルウェアに感染させられました。これにより、約8100万ドルが不正送金されるという甚大な被害が出ました。
2. インドの銀行・デビットカード情報流出 (2016年)
複数の銀行が利用する決済システムを担っていた「日立ペイメントサービス」のネットワークがマルウェアに感染。結果として、約320万枚ものデビットカード情報が流出しました。
この種の攻撃の恐ろしさは、銀行や利用者が信頼しきっている「公式なインフラ」そのものが武器に変わる点にあります。金融システムは、一つの企業のセキュリティだけでなく、エコシステム全体を構成するパートナー企業の信頼性の上に成り立つ、ガラスの城なのです。

テクノロジーの進化は、私たちの生活を便利にする一方で、予期せぬセキュリティホールを生み出す危険性も秘めています。特に、新しい金融サービスが導入される際には注意が必要です。
日本でも、サービスの連携部分の盲点を突かれた事件が発生しました。
• ドコモ口座問題 (2020年): キャッシュレス決済サービス「ドコモ口座」と銀行口座を連携させる際の本人確認プロセスに不備があり、第三者が他人の口座から不正に預金を引き出す事件が多発しました。
• ゆうちょ銀行関連の不正利用 (2020年): 同様に、ゆうちょ銀行の即時振替サービスと複数の外部キャッシュレス決済サービスとの連携において、認証フローの脆弱性が悪用され、不正な出金被害が相次ぎました。
これらの事件は、利便性の向上とセキュリティの確保が常にトレードオフの関係にあることを示しています。一つのサービスは安全でも、それを他のサービスと「連携」させた瞬間に、新たなリスクが生まれる可能性があるのです。新しいサービスを利用する際は、その便利さの裏に潜むリスクにも目を向ける必要があります。

これまで外部からの脅威を中心に見てきましたが、最後に見過ごされがちなのが「内部からの脅威」です。どれだけ強固なシステムを構築しても、正規の権限を持つ人間による不正を100%防ぐことは困難です。
実際に、銀行の支店長や行員が顧客の口座から不正に資金を引き出すといった内部不正事件は、過去に何度も起きています。これはシステムを破るハッキングではなく、与えられた権限の悪用です。
これは、外部のハッカーが壁を乗り越えるのとは全く異なる、「内部脅威」と呼ばれる問題です。正規の権限を持つ人間がそれを悪用するため、システム的な防御が極めて難しいのです。銀行のセキュリティは、外部からの侵入者だけでなく、内部の「信頼された個人」という最も予測しにくいリスクにも向き合わなければならない、複雑な課題を浮き彫りにしています。
まとめ
銀行のセキュリティは、もはや「鉄壁のシステム」という一言では語れません。今回見てきた5つの事実は、この問題が単純なハッキングではなく、人間の心理、システムの連携、新しい技術の導入プロセス、そして組織内部の信頼といった、より複雑で多層的な課題であることを示しています。
銀行がどれだけ強固な要塞を築いても、攻撃者はその周りにある小さな抜け穴や、信頼という名の扉を狙ってきます。私たちに今、問われているのはこれではないでしょうか。
銀行の「鉄壁」を信じるだけでなく、私たち自身の「デジタルの扉」に、しっかりと鍵をかける意識が必要です。
https://phity.net/bitcoin-yen-freedom-trust-security