新リベラルの思想
テクノリバタリアンの源流である新リベラルの思想は、20世紀中頃、経済学者フリードリヒ・ハイエクやミルトン・フリードマンによって理論的基盤が築かれました。彼らは市場経済の拡大と国家介入の縮小を主張し、1980年代以降、イギリスのマーガレット・サッチャーやアメリカのロナルド・レーガンなどの政治家によって政策として実践されました。
新リベラルの思想は、自由市場の原理を重視し、政府の役割を最小限に抑えることを目指しています。以下にその主な特徴を挙げます:
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社会的公正:貧困や不平等を減少させる政策を支持。
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環境保護:気候変動や環境問題に対する積極的な対策を求める。
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経済的自由:市場経済を支持しつつ、公正な競争を促進するための規制を重視。
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個人の自由:個人の権利と自由を尊重し、差別や偏見に対する強い反対を表明。
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国際協力:国際的な協力と多国間主義を支持し、グローバルな問題に対する共同の解決策を模索。
米国の金融・産業界の組織
アメリカの金融・産業界は、複雑で多層的な構造を持っています。以下はその一部です:
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金融機関の構造:連邦準備制度(FRB)、商業銀行、投資銀行、保険会社などが含まれます。
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産業界の影響力:大企業が政治や経済政策に大きな影響力を持ち、ロビー活動を通じて政策決定に影響を与えています。
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組織的行動:市場の競争力を高めるための戦略的提携や合併・買収(M&A)を行い、規模の経済を実現しています。
金融グローバリズム
西欧を中心としたグローバル資本主義は、新自由主義や新保守主義と結びつき、自由や平等、正義を主張しています。新自由主義者は、個人の自由に国家が介入することに反対し、日本でも資産階級は累進課税や相続税の引き下げを求めています。しかし、グローバル資本主義は国家間および個人間の貧富の格差をもたらしており、これを別の仕組みによって再構築しようとする動きがあります。
テクノリバタリアン
イーロン・マスクやシリコンバレーのIT創業者は、テクノ・リバタリアンと呼ばれ、自由原理主義(リバタリアニズム)をハイテク技術によって実現しようとしています。彼らは国家や中央集権的な組織に依存せず、暗号技術やAIを駆使して個人の自由を最大限に尊重します。
テクノ・リバタリアニズム(Techno-libertarianism)
テクノ・リバタリアニズムは、1990年代初頭のシリコンバレーにおけるサイファーパンク文化とアメリカのリバタリアニズムに源流を持つ政治哲学です。この哲学は、政府による規制や監視を最小化し、自由なインターネットを推進することに力点を置いています。
テクノ・リバタリアンは、流動的で能力主義的な階級制度を支持し、市場がそれを実現するために最適だと考えています。最も有名なテクノ・リバタリアンの一人は、ウィキリークスの創設者であるジュリアン・アサンジです。この思想は、技術の進歩と個人の自由を強調し、政府の過度な干渉を避けることを目指しています。
イーロン・マスクは、政府効率化省のトップに就任しました。彼はアメリカ政府に対してだけでなく、イギリスやドイツの政治に介入して労働規制の緩和を求めています。それは安価な労働力を手に入れやすくするためで、極右政党に肩入れして政策実現を目指しています。
ドナルド・トランプとテクノ・リバタリアン
トランプ大統領の「アメリカへの約束」はアメリカ国民に向けて次の4つの約束を掲げている。
1. アメリカ生活の中心としての家族を取り戻し、子供たちを守る
2. 行政国家を解体し、アメリカ国民に自治を取り戻す
3. グローバルな脅威から、わが国の主権、国境、恵みを守る
4. 自由に生きるために神から与えられた個人の権利、すなわち憲法で言うところの“自由の祝福”を確保する
肥大化した連邦政府を縮小し、国民の共同体が管理する等身大のアメリカにするというコンセプトだ。トランプの思想の原点はキリスト教ナショナリズムであるが、政府の縮小化はテクノ・リバタリアンの主張と一致している。
トランプ大統領の就任式にはテクノ・リバタリアンのテスラのイーロン・マスクの他に、アルファベットのスンダー・ピチャイ、アマゾンのジェフ・ベゾス、そしてメタのマーク・ザッカーバーグが陣取った。
さらに、トランプ大統領はAI(人工知能)の推進とインフラ整備に力を入れており、特に「プロジェクト・スターゲート」という大規模なAIプロジェクトを支援しています。このプロジェクトは、OpenAI、オラクル、ソフトバンクグループが主導し、アメリカ国内で新たなAIインフラを構築するために5000億ドル(約78兆円)を投資する計画です。これにより、10万人の雇用創出が見込まれています。
アメリカ国民がテクノリバタリアニズムを受け入れる素地
アメリカの現在の政治情勢は、特に2024年の大統領選挙に見られるように、著しい分極化とストレスに満ちている。このような政治的緊張と社会的ストレスの高まる環境では、テクノリバタリアニズムの考えが広く受け入れられるのは難しいかもしれません。
テクノリバタリアニズムは、政府の規制を最小限に抑え、技術革新を通じて個人の自由を最大化することを強調します。しかし、医療、暴力、環境などの問題に対する懸念が高まる政治的に緊迫した雰囲気の中では、政府の介入を減らすことを主張する考えに対する抵抗があるかもしれません。市民の自由と自由市場に焦点を当てるテクノリバタリアニズムは、これらの差し迫った問題に対処するための政府の監視と規制を求める声と衝突する可能性があります。
日本の政策と新リベラル思想
日本では、1990年代初頭のバブル経済崩壊以降、経済が長期にわたり停滞し「失われた30年」と言われています。政府が主導して、公共事業や社会保障制度の充実がはかられ、社会的公正や環境保護を重視しています。新リベラルの思想は、自由市場の原理を重視し、政府の介入を最小限に抑えることを目指しますが、日本の政策はこれとは異なるアプローチを取っています。