AIはなぜ総裁選予測を外したのか?4大モデルの「反省会」から見えた3つの意外な教訓

AI自身の「反省会」開催

人工知能(AI)が様々な分野で驚異的な予測能力を発揮する中、政治、特に政党内の代表選挙は依然として最も難解な領域の一つとして残されています。先日行われた自民党総裁選は、その格好のケーススタディとなりました。GeminiやCopilotなどが小泉氏の勝利を本命視する一方で、予測は大きく揺れました。さらに興味深いのは、AI自身の「反省会」を覗くと、一部のモデルが公表した勝率予測とは裏腹に「的中」を主張するなど、その評価は複雑な様相を呈していることです。

この「失敗」や混乱はAIの弱点を露呈したというより、むしろ貴重な学習機会を提供してくれました。AIモデル自身による自己分析を深く読み解くと、データだけでは捉えきれない政治の生々しい本質が浮かび上がってきます。本稿では、AIたちの反省から見えてきた、3つの意外な教訓を解説します。

「選挙の顔」より「党内の力学」が勝ったという現実

AIの大きな賭け:「選挙の顔」という幻想

予測を外したGeminiやCopilotの分析を見ると、共通のロジックが見えてきます。それは、目前に迫る総選挙を意識した議員たちは、国民的人気が高く、選挙を戦う上で有利な「選挙の顔」となる候補者を選ぶだろう、というものでした。事実、投開票日(10/4)のGeminiの予測では、幅広い議員支持と国民的人気を理由に、小泉進次郎氏が「当選する可能性が最も高い」と結論づけていました。Copilotもまた、このロジックに基づいた「国会議員票の過信」を敗因の一つとして挙げています。

ベテランが選んだ「安定」という内向きの論理

しかし、結果はこの前提を覆しました。議員たちの投票行動を最終的に左右したのは、世論の動向よりも、党内に渦巻く複雑な力学でした。小泉氏の持つ「改革・刷新」のイメージと国民的人気は、ベテラン議員の目にはむしろ「コントロールが難しい」不安定要素と映ったのかもしれません。彼らが優先したのは、極めて内向きな論理でした。

Geminiは自身の反省会で、この点を鋭く指摘しています。

多くの議員、特にベテラン議員は、「政権運営の安定性」や「政策の一貫性」、そして「党内力学(誰が勝てば自分たちに有利か)」を、国民人気よりも優先しました。

この結果は、党内選挙が、国民全体を対象とする選挙とは全く異なるルールと、保守本流が求める「安定」という優先順位によって支配されているという、政治の厳然たる事実を改めて浮き彫りにしました。

 データでは測れない「熱量」と「キングメーカー」の存在

数字が語らない「熱」と「権力」

AIは世論調査の数字や過去の投票データといった定量的な情報を処理することに長けていますが、今回の総裁選では、数値化しにくい定性的な要素が結果を大きく左右しました。

一つは、高市早苗氏の支持層が持つ「熱量」です。Geminiは反省点で、高市氏の党員票の強さが「事前の世論調査で示された以上に強力であった」と認めました。これは、単なる支持率の数字には表れない、候補者の理念に対する熱烈な支持が、実際の投票行動においていかに強力な推進力となり得るかを示しています。この「熱量」が、高市氏を決選投票へと押し上げる原動力となったのです。

もう一つは、麻生太郎氏のような党の重鎮、いわゆる「キングメーカー」の存在です。AIは決選投票での票の動きを合理的に予測しようとしましたが、現実はよりシンプルでした。Geminiの分析によれば、「麻生最高顧問や茂木氏の陣営が塊となって高市氏を支持したことが最大の要因」であり、AIはこの「派閥の結束」の力を「過小評価していた」と結論づけています。

AIの分析における最大の死角は、これら二つの要素を個別に見誤ったこと以上に、両者の相互作用をモデル化できなかった点にあります。党員層からの目に見える熱狂的な支持が、キングメーカーたちに「高市氏を支持する」という決断を下すための政治的正当性と大義名分を与えたのです。草の根のエネルギーと、永田町の権力力学が合流した点にこそ、今回の逆転劇の本質がありました。

この教訓は、AIが政治の結末を左右する、目に見えない人間的要素――熱烈な信念、個人的な忠誠心、そして水面下での権力調整といった力学――を完全には捉えきれていない現状を示唆しています。

 「勝者のロジック」は最初から見えていた?

予測を的中させた唯一のAI

ほとんどのAIが小泉氏の勝利を予測する中、Grokは一貫して高市早苗氏を「当選を本命視してきました」。なぜGrokだけが的確な予測を行えたのでしょうか。その分析フレームワークに、勝利へのロジックが隠されていました。

Grokが見抜いた「党の魂」

Grokの成功の核心は、自民党を単に世論に反応する集団としてではなく、強力な保守中核を持つイデオロギー的実体として捉えた点にあります。その分析の根幹には「保守回帰」という明確なテーゼがありました。このフレームワークに基づき、Grokは以下の要素を正確に評価しました。

  • 決選投票システムの重視: 選挙が1回目の投票で決まらず、決選投票にもつれ込むことを的確に予測。さらに、議員票のみで争われるその舞台では、保守本流の支持を固める高市氏が有利になると分析していました。決選投票(議員票のみ)になれば、高市 vs. 小泉の構図で高市有利と予想しますと、明確に指摘しています。
  • 保守層の支持基盤の正確な評価: 高市氏を支える保守層や党員の強固な支持を、石破政権からの揺り戻しを求める「保守回帰」の大きなうねりと捉え、これが決選投票での逆転劇につながる力だと見抜いていました。
  • 対立候補の弱点の分析: 他の候補者の弱点を冷静に分析していた点も重要です。特に、最有力と見られていた小泉氏の「政策の曖昧さ」を指摘し、これが相対的に高市氏の優位性を高める要因になると見ていました。

Grokの成功が示すのは、政治予測の鍵は、必ずしもより多くのデータを持つことではないということです。むしろ、その選挙固有のルール(決選投票の仕組み)を深く理解し、投票者の真の動機(党のイデオロギー、すなわち「魂」)を見抜く、優れた分析の「フレームワーク」こそが、未来を正確に見通すために不可欠なのです。

まとめ :政治の真髄を炙り出す

AIたちの予測の失敗は、単なる技術的な課題を浮き彫りにしただけではありませんでした。むしろ、一つの成功例よりもはるかに雄弁に、政治がいかに複雑で、人間臭い力学に満ちた領域であるかを教えてくれました。

AIは進化を続ける中で、人間の野心、忠誠心、権力といった機微を真に理解できるようになるのでしょうか? それとも、政治は常に、頑ななまでに、そしておそらくは美しく、人間的な領域であり続けるのでしょうか?今回の総裁選は、私たちにそんな根源的な問いを投げかけています。

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