隈研吾最終講義第8回「エンジニアリングの未来」ゲスト 江尻憲泰・佐藤淳
2020年1月25日(土)17時〜19時40分
@東京大学本郷キャンパス安田講堂
江尻憲泰|建築構造家/長岡造形大
佐藤淳|建築構造家/東京大学
隈研吾
隈研吾の講演
今日は構造がテーマです。いつも構造設計を頼んでいる先生お二人に講演していただきます。
私が小学生の時の1964年、丹下健三のオリンピックの代々木の体育館を見て感動しました。高い支柱のケーブルの吊り構造です。高い支柱は高度経済成長時代の象徴でした。構造は東大生研教授の坪井善勝です。坪井先生はシェル構造をドイツに学んだそうです。
後に、これと似ていると言われるサーリネンのイエール大学のホッケーリンクを見たが、がっかりしました。
丹下の聖カテドラル教会はシェル構造で、より高くより大きいを望む時代の象徴。
新国立競技場のザハ案は、高さが75mだった。設計するとき、この高さを47.4mとして60%低く実現できて達成感を得た。柱を途中で内側に折り曲げて外観の威圧感を軽減させた。鉄と木の混構造で、鉄の周りを木で包み木が映るようにした。免震にせずソフト ファースト ストーリーとして穏やかな耐震構造とした。屋根のスパンの200mに対し中央に3.5mのむくりをつけて材料を節約できた。
3/19オープンする高輪ゲートウェイ駅も木が主役になるように設計した。
これまで細い線の集合体、小さいものを組み合わせて建築を作っている。構造も佐野利器のフレームの解析から多変量、粒子的解析法に変わってきた。それをまとめて本にした。画家カンディンスキーの名著の「点線面」と同じ題名にした。
江尻憲泰の講演
小さな建築を構造の視点から話す。私の師は青木繁で、現在は民学官の仕事をしている。建築構造設計を実験をしながら進めている。
- 特殊な材料をテーマにしている。
- 紙のハニカム材の折版構造で透明な材料を実現させた。
- 炭素繊維の撚り線がJIS化され建築に応用している。
- 竹は強度が木材より高いので、建材として注目している。
佐藤淳の講演
桑村研究室で鉄骨構造を学び、木村俊彦構造設計で働いていた。
木の立体格子
青山のパイナップルケーキのショップは、隈さんから「もじゃもじゃ」な形態と言われてデザインした。立体格子の「地獄組」という、障子などに古来より使われてきた組木細工の手法を、応用して作っている。接着剤や継ぎ材などを一切使わずに組み上げた。
光環境の最適化、力学的最適化するデザインツール
「もしゃもしゃ」とした風景などナチュラルさを2次元スペクトルで解析するデザイン手法を開発した。人の快適性を表す「こもれび さざ波 せせらぎ ススキの原」を指標として定量化した。イメージから空間を作れる。光環境の最適化、力学的最適化するデザインツール。
多面体を力学的に最適となる形態解析ツール
シェル構造の座屈について形態解析で、シェルの表面に局所的にしわ、溝、凹凸を表面につけて強度を増す研究をした。その結果、花柄は水玉よりも強いことが分かった。
虫展の作品
虫展で隈さんの丸投げ企画に呼応した。和紙を材料にして製作した。
軽量で安全な壊れ方をする建築。
隈、江尻、佐藤の対談
K:今回の構造の先生の話は、数学もあり一般向けの最終講義には難しかった。
関東大震災(1923)のときの建物は柱と床スラブだけで梁がなかった。佐野利器により1925年以後はフレームが主流となった。海外では地震のないところでは今でも柱床の構造がある。1964年に丹下健三は柱梁でなく曲面構造を出してきた。
E:新しい技術として、竹、炭素繊維などの多様な素材がある。
炭素繊維の原料の70%は日本で作っているが、ほとんど海外で使われ日本は10%くらいで応用が遅れている。
K:技術の融合と建築の民主化について。建築は、市民ではなく専門の建築会社しか作れないのが問題だ。フーラーはフラードームを学生と作った。恩師の内田先生から建築の民主化を叩き込まれた。丹下の美しい造形の路線とは異なり、内田はプレハブの住宅を研究した。
パビリオンの建物は基準法の外で、新しい構造を試むことができた。パビリオンは設計料は入らないが、ある種の実験としてやってきた。その蓄積で大きな建物に実現できた。
東大生研の原先生は「錬金術師は、金を作れないことは知りながら、科学の発見をした」とよく話されていた。錬金術の姿勢は私のやり方と似ている。
S:コンピュータのおかげ手間をかけずに力学解析できるようになった。
K:大学はボランタリーで効用がある。原研究室で自宅を作るとき、工務店が作るのが難しいので逃げ出しので、学生が集められて1日18時間現場工事をさせられた。先生はもっと頑張っていたので従わざるを得なかった。学生は挑戦してくれるので貴重。
S:元請よりも大工さんの方が技術的に挑戦してくれる。
K:日本の職人は宝だ。海外のパビリオンは日本で作って組み建てる。唯一、イタリアの石職人は木のように石を加工して凄い。
K:日本の建築学科の教室は建築家とエンジニアが同居している。これが世界的に注目されている。MITはもともと一緒だった。ハーバード大、イエール大はエンジニアは分かれているので協働がし難い。
慶大のとき形状記憶合金の先生と交流した。形状記憶合金は、ある温度を思い出して形が変化する。ワイシャツのカラー、ブラジャーに使われている。構造家の新谷さんとドームを計画したが、途中で壊れることが分かりパビリオンだけで実現した。
S:人間センサリングの先生と交流している。血圧をオンラインで測れるようになったのを応用。軽量な構築物で風を送り人間がリラックスできる空間を作る。
構造色をナノ粒子を使って実現する研究者と交流。
K:強力な磁石。イタリアの石屋がら持ちかけられた。
K:市民と一緒にパビリオンを作っている。
質問:一般の人は豊洲、耐震偽装で構造が身近になった。ガラスが割れるなど、どうやって構造を伝えるか。
S:建物が頑丈になりすぎて壊れる実感を持ちにくくなった。ガラスも相当強くて割れなくなった。
質問:慶大教員 構造家の社会的認知は、どの辺をくすぐると実現するか。
S:設計チームの編成によっては、行政からよく評価されたことがある。
E:断片化すると全体が見えない。いろいろな人が集まって意見を交わすのが大事。
K:災害が良く起きるので、建築の安全安心に対する社会意識は高い。リスクと建築がシームレスにつながると良い。テントは落ちてきても人を傷つけない。洋服のように安全な建築はないか。
質問:市民との関係。少子高齢化で人と人をつなぐ建築は。
S:構造家としては、イメージが湧かない。海外で災害を受けた市民と山留壁を作ったことがある。
K:構造と市民との関係は、災害を機に濃くなってきた。建築家は「市民と構造とつなげたい」意識が潜在的にあり、コミュニケーターとしての役割も重要だ。
次回の最終講義09
2020年2月16日 17:00~19:30@安田講堂
「世界と日本」
バリー・バーグドール(建築史学マイヤー・シャピロ講座教授、コロンビア大学)
ボトンド・ボグナール(建築評論家、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校建築学部エドガー・A・タフェル講座教授)
隈研吾
最終回の最終講義10
2020年3月14日 17:00~19:30@安田講堂
「コンピューテショナル デザイン」
隈研吾
他
関連リンク
隈研吾教授最終連続講義 第2回「家族とコミュニティの未来」上野千鶴子/三浦展 外部リンク
隈研吾教授最終連続講義 第2回「家族とコミュニティの未来」外部リンク
2020年に東大退職する隈研吾氏、大学院時代のアフリカ体験が原点と明かす(一部有料))外部リンク
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